「真白さんと再会してから
「真白さんと再会してから……その、真白さんとは何もなかったの……?」
甲斐の気持ちを疑っstock trading platform singaporeているわけではない。
でも、どうしても気になってしまうのだ。
実際、二人は頻繁に連絡を取り合っているように感じた。
「確かに、この間真白からまた付き合いたいって言われたよ。昔のような関係に戻りたいって。でも俺は七瀬のことが好きなんだって、真白と再会した日に伝えてたから」
「え?」
頭の中が混乱し始めたため、一度冷静になり真白さんが私に言ったことを思い出してみる。
「でも真白さんは、甲斐が私のことを親友だって言ってたって話してくれたけど……」
「何それ。俺はそんなこと、一言も言ってないよ」
甲斐はきっと、私に嘘をつかない。
それなら、真白さんが私に嘘をついていたことになる。
でも、真白さんを責める気持ちにはならなかった。
多分彼女も、必死だったのだ。
それほどに、甲斐を手に入れたかったのだと思う。
そう思うと、他にも彼女はいくつか私に嘘をついていたのかもしれない。
だとしても、それらを鵜呑みにして、甲斐に直接本心を聞き出すことを恐れていた私がいけなかったのだ。
もっと早く、素直になっていれば良かった。
そうすれば、もっと早く、こんな幸せを知ることが出来たのに。「青柳と桜崎は、俺と真白がヨリを戻すんじゃないかってずっと疑ってたらしいけどね」
「……私も、思ってた。……真白さんの口から甲斐の名前が出る度に、そんな親しげに名前を呼ばないでって嫉妬してた」
今思えば、私はみっともないくらい嫉妬していたと思う。
甲斐は私の彼氏ではないのに、勝手に奪われたような気持ちになっていた。
でも今日からは、甲斐のことを堂々と恋人だと言える。
それがあまりにも嬉しくて、私は溢れる涙をグッと堪えた。
「……何それ」
「え?」
ふと見ると、甲斐は両手で顔を覆いその場にしゃがみこんでしまった。
「甲斐、どうしたの?」
「お前が嫉妬とか……ヤバいって」
「意味わかんないんだけど……」
私も甲斐に合わせてその場にしゃがむと、彼は私の後頭部に手を回し唇にキスをした。
それは触れるだけのキスだったけれど、互いの気持ちが伝わるには十分過ぎるものだった。
「ていうかさ、お前の方こそいいの?」
「何が……?」
「久我さん。正直、あの人には太刀打ち出来ないと思ってた。……あんな完璧な男がライバルとか、さすがに心折れそうになった」
うなだれる甲斐を見て、私は思わず笑ってしまった。「……何だよ」
「あ、ごめん。何か、甲斐が可愛いなと思って」
わかりやすい甲斐の様子を眺めていると、母性本能がくすぐられてしまう。
ぎゅっと抱きしめてあげたくなる。
「はぁ?……何かムカつく」
「どうして?」
「お前一人だけ、余裕そうだから。……俺は全然、余裕なんてないよ」
甲斐の真っ直ぐな視線が、また私を捕らえて動けなくする。
「ずっとお前のことが欲しくて、欲しくて……やっと手に入れた」
「……私も余裕なんかじゃないよ。今、凄くドキドキしてる」
私たちはもう一度目を閉じてキスを交わした。
キスの最中に薄く目を開けると、綺麗な夕日が目に飛び込んできて思わず声を上げてしまった。
「わぁ……」
「何?」
「甲斐、見て。夕日、凄いね」
「本当だ。こんな綺麗な夕日、初めて見たかも」
私たちは、自然と手を繋いでいた。
今まで臆病になっていたことが嘘のようだと感じてしまうくらい、私の隣には当たり前のように甲斐がいる。
隣にいられるだけで幸せだと、心から強く思った。
「この夕日見てから帰るか」
「うん」
私は夕日を眺めるフリをしながら、何度も横目で甲斐の顔を見つめていた。綺麗で幻想的な夕焼けを十分に堪能した後、帰り道の車中で私は甲斐を質問攻めにした。
なぜ私の居場所がわかったのか。
なぜ蘭と一緒にここへ来たのか。
「家で休んでたら、桜崎から電話が入ったんだよ。七瀬が、久我さんとドライブに出掛けたって。放っておいたら、あの二人今日にも付き合い始めるだろうって。そう思ったら、家飛び出してた」
その後、蘭と合流し蘭の指示で積丹に向かってくれたらしい。
「七瀬の電話がずっと繋がらないから、桜崎が久我さんと連絡取り合ってくれたんだ」
「え……」
「桜崎には、本当に感謝してるよ。……それから、久我さんにも」
確かに久我さんは、二人でいる間何度かスマホで誰かとメールのやり取りをしていた。
きっと仕事関係の人だろうと思い気にしていなかったけれど、その相手は蘭だったのだと今わかった。
「……私も、後でちゃんとお礼言っておくね」
「七瀬からは、久我さんに何も言わなくていいよ。今度俺が七瀬の分もちゃんと伝えておくから」
「……」
もしかして、これは甲斐の嫉妬なのだろうか。
久我さんとは連絡を取ってほしくない。
そんな気持ちが込められているのだろうかと思い、運転している甲斐を見つめていると、信号が赤になったところで甲斐と目が合った。「言っておくけど、俺意外と嫉妬深いから」
「……」
どうしよう。
胸が高鳴るどころか、ドキドキし過ぎて痛くなる。
甲斐が私を見つめる眼差しが、今までのものとは違う。
何十倍も甘く感じてしまう。
私の心臓、高鳴り過ぎて壊れないだろうかと本気で心配してしまった。
「もちろん俺も、真白とはもう連絡取らないから」
「え……」
「七瀬を不安にさせるようなことはしたくない」
甲斐と真白さんがこれからも連絡を取り合うようなら、自分に自信のない私はきっと不安で仕方なくなる。
それを、何も言わなくても甲斐はわかってくれている。
ちゃんと真っ直ぐに私を想ってくれていることが、何気ない言葉から伝わってくる。
こんなに嬉しいことがあってもいいのだろうか。
「……甲斐、ありがとう」
「何が?」
「全部」
「何だ、それ」
笑われてしまったけれど、甲斐の全てに感謝している。
私を好きになってくれたことも、出会ったときからずっと好きでい続けてくれたことも、こんな幸せを教えてくれたことにも。
「……今日、七瀬の家に行ってもいい?」
「……うん」
十分甘過ぎる甲斐だけれど、彼の甘さはこんなものではなかったのだと、二人で家に帰ってから私は身を持って思い知ることになる。