「貴様、名は何と言う?

「貴様、名は何と言う?」ふいにコーデリアスがハンベエに尋ねた。「俺はハンベエ。」とハンベエはぶっきらぼうに答えた。ハンベエ、タゴロローム守備軍に入ってからは、上官に当たるものには多少の敬語を使い、軍の秩序に従っていたが、この状況になると、本来の地金が出てきて、傍若無人な物言いに戻ってしまっている。「貴様がハンベエか。大八車の活用を提案した男だな。」とコーデリアスは言った。「一つ聞いてもいいか。念のためだが。」ハンベエはコーデリアスに無遠慮に言った。「よいぞ。何でも聞いてくれ。」コーデリ避孕藥牌子殊更に表情を和らげて言った。ハンベエの言葉遣いを気にしている様子はない。負傷のためかあるいは連隊を守れなかった自分に対する呵責の念のためか、その表情は冴えない。「守備軍本部からの撤退指令は一切無かったんだよな。」ハンベエの質問に、コーデリアスの顔が一瞬歪んだように見えた。「今さら言えば、言い訳めいた事になるが、わしは何度も撤退要請をした。しかし、本部からの回答はしばらく待てであった。わしは愚かだった。わしに決断力が無かったために、連隊の皆を悲惨な目に遇わせてしまった。」 コーデリアスは苦渋を吐き出すように言った。そして、ハンベエに向けて、さらに頼み込むように続けた。「唐突だが、いっそのこと事、貴様、この連隊の帰還の指揮を取ってもらえないか?わしはここで死にたい。いや、生きては帰れん。」突然のコーデリアスの言葉に、ハンベエは少々驚いたが、コーデリアスの側近は大いに驚いた様子だ。 閣下何を、と言い掛ける側近を、コーデリアスは手で制してハンベエを見つめた。「指揮は引き受けるぜ。俺の方から、申し出ようかと思っていたところだ。だが、ここで死ぬのは賛成しないな。大丈夫だ。ちゃんと死なせてやる。一緒に帰還しよう。」とハンベエは事も無げに答えた。この無礼とも傲慢とも言えるセリフに、コーデリアスの側近は、何を思い上がっているんだといきり立ったが、それもコーデリアスに制せられた。「死なせてくれるんだな。ちゃんと」 コーデリアスはぐっとハンベエを見つめて言った。ハンベエは静かな目でコーデリアスの目を見つめ返し、小さくアゴを引いた。連隊長コーデリアスは、敗残の残り少ない第5連隊兵士を見回した。それから、声を張り上げて布告した。「この度の事、皆にはまことに申し訳のない事をした。死んで詫びたいと思うが、しばし待ってもらいたい。我らは今より帰還する。この後の指揮はここにいるこの男ハンベエが取る。従うように。」兵士達は騒めいたが、すぐに静まった。それぞれ、階級も違うはずだが、今となってはひとかたまりの兵士の集まりに過ぎなかった。ハンベエは元々、第5連隊の生き残りの集結に手を着けた時点で、その集団を掌握しようという腹積りだったが、それが向こうから転がり込んで来たのである。美味すぎる話であるが、今のハンベエにそんな思いを浮かべる余裕はない。ハンベエ、人の上に立ちたい欲望も自信も別に有るわけではないが、今はただ心の内より突き上げてくる衝動のまま、此等の兵士を率いて行こうと考えていた。それよりも、ハンベエにとって意外であったのは、第5連隊の隊長コーデリアスが思いもよらず立派な人物であった事である。最初に出会った将軍バンケルクへの悪印象に始まり、自分の手で消したルーズやクソ野郎の中隊長ハリスン、途中ドルバスのように心を許せる人間とも巡りあったが、はっきり言って、第5連隊は質の良くない人間の集まりであった。その連隊の隊長が、部下の悲惨な死に様を食い止められなかった事を、申し訳無かったと詫び、死ぬと言う。ハンベエ、コーデリアスの態度に、胸中深く感じ入っていた。