しかし今回の道連れは

しかし今回の道連れは、王女エレナ、エレナが剣の達人というのはハンベエの見立てやらボーンの話から見当は付いてるいるが、実際の立ち回りを見たのは、イザベラに操られたシンバをいなした時の一挙動のみ。ロキもハンベエに寄せるほどの絶大な信頼は持てない。それに仮に、藥性子宮環王女が凄腕だからと言って、ロキの立場としては、ゴマのハエを追い払うのに王女の手を煩わすわけにも行かない。出来る限りならず者達と出会わないように、遠回りしたり、裏道を通ったりして進んだ。自前の地図を作る程のロキである。ゲッソゴロロ街道の地理には通じている。 そんなこんなで、幾つかの村の宿屋に泊まったり、野宿したりしながら、ロキとエレナは取り立てて厄介な事に巻き込まずに進んで行った。チャンチャンバラバラの大立ち回りを期待していた方々は悪しからず。まあ、何だね、厄介事とか争い事に巻き込まれる人間ってのは、元々そういう星の下に生まれ合わせていて、自分から関わらなければ、そういう事を避けて通れる人間もいるって事なんだろうね。 例えば、ハンベエ。この男は師フデンの下を離れてからは、むしろ自分の方から争いの種を探して歩いていたような奴だから、揉め事の方も当人の熱望に応えて寄って来た。或いはボーン、どちらかというと余計な揉め事を避けて通ろうしていたが、それでも、前回ロキとゲッソリナに向かう道中では少なからずならず者に絡まれた。闇の世界を渡って来た結果染み付いた臭いのようなものが、知らず知らずのうちに敵を呼び寄せていたような面があったに違いない。それに引き換え、今回の道連れであるエレナは王女である。剣の修行は積んだかも知れないが、元々争い事に関わらない暮らしをし、又下々のようにその日の糧に困って止むに止まれぬ争いをした事もない。聡明ではあったが、おっとりとした性分に育っていた。結果、揉め事や修羅場の方が道を空けて通してしまったようである。以前は鬼門であったハナハナ山の麓もハンベエとイザベラがハナハナ党を全滅させたお陰か、穏やかなものであった。周辺の村々にも何処で聞き付けたのか、人が戻って来ており、少しづつ賑わいが出て来ているようである。こうして、何の障害もなくタゴロロームに向けて進んだロキとエレナであったが、ロキが進行に慎重を期したため、若干旅程は遅れがちであった。通常旅程で、ゲッソリナからタゴロロームまでは大人で10日である。だが、ロキは急げば5日か6日で踏破できる。エレナも温室育ちではあるが、剣の修行を欠かさぬためか、足は遅くない。急ぎに急げば5日目にはタゴロロームに着けるはずであったが、まだハナハナ山とタゴロロームの中間地点辺りを歩いていた。並んで歩くロキにエレナが不意に言った。「付けられています。」「えっ。」慌てて振り返ろうとするロキを手で制して、「2時間ほど前から付けて来ていますが、手を出して来る様子はないので放って置きましょう。」と穏やかに言った。果たして何者が?、とロキは思案を巡らせた。追い剥ぎの類いなら、たった2人を2時間も付け回すとも思えない。又、武術の心得が無いとはいえ、このオイラに全く悟らせずに付けて来るとは只者じゃあない。きっとそれなりの奴らだ。・・・とすると、宰相の手の者、サイレント・キッチンの部隊員か。「宰相閣下が寄越した連中かなあ?」ロキは一人言のように呟いた。「そうかも、知れませんね。・・・あれは。」エレナはロキの言葉に相槌を打ちながら、前方に何かを見つけて、少し驚いた顔をした。「王女様、どうかしたの?」エレナの驚いた様子に、ロキはエレナの視線を追った。道沿いの農家から出て、しきりに家の方にお辞儀をしている屈強そうな武人が一人目に入った。「あれは王女様の・・・。」ロキはおやっという感じで言い掛けた。